ファンベースとは、ファンを大切にし、ファンを土台にして中長期的に売上や価値を上げていく考え方です。
売上を増やすために、新規顧客よりファンを優先し、つながりを大切にする施策を実践していきます。
これによりファンとの絆が強固なものとなり、中長期的な売り上げや事業価値が高められます。
ファンを増やすための基礎的な概念であるファンベースを実践するためには、重要なアプローチと手順があります。
ファンベースがこれからのビジネスに重要な理由と、アプローチの方法を解説しますので、事業やマーケティングの施策が停滞気味で新たな取り組みが必要だと感じている方はぜひご覧ください。
ファンベースとは
ファンベースとは、ファンを企業を支える存在として大切にして、中長期的に売上や価値を上げていく考え方です。
顧客に対する新しい概念で、2018年に発売された新書「ファンベース」の著者である佐藤尚之氏*によって提唱されました。
ファンの愛着や共感・信頼関係を構築することで、売り上げや事業価値が高められると佐藤氏は提唱しています。
ファンベースの意味は顧客を重視する従来のマーケティング戦略よりも、よりファンへの比重を大きくすることに特徴があります。
【特徴】
- ・ファン一人ひとりのLTVを高める
- ・ファンの友人へ推奨することが新たなファンを獲得する
企業にとって売り上げをあげていくことは重要ですが、その前提としてファンの満足度をあげ愛着を持ってもらうための施策が大切です。
変化が早い時代にあって、従来型のキャンペーンだけで売上を伸ばすのは難しいからです。そのため、ファンのLTV*を高めて売上を安定させることが大切なのです。
さらに、ファンから周囲の友人への「推奨」も非常に効果的です。友人は感性が近いので、新たなファンになってくれる可能性が高いです。
ファンベースの考え方では、ファンを使って利益を追求するようないわゆるテクニックはありません。顧客を囲い込んでコミュニティを作り出し刈り取る存在としてもとらえていません。
単なるリピーターではなく、自社の商品やサービスを深く理解し愛着を持って選んでくれるファンという存在を大切にする必要があります。
ファンを大切にすることは当たり前のことに思われますが、ファンベースでは大切にするという度合いが強いことを理解してください。
※佐藤尚之(通称:さとなお) 1985年に電通に入社。コピーライター・CMプランナー・WEBディレクターなど歴任後、2011年株式会社ツナグを設立。 「ファンベース」の概念に共感した野村ホールディングス株式会社・アライドアーキテクツ株式会社と三社で2019年「株式会社ファンベースカンパニー」を設立。 |
※LTV(Life Time Value)は一人の顧客が生涯を通じて企業側にもたらす価値を表す指標。
|ファンの定義
ファンとは、いわゆる商品やサービスなどの機能だけに惹かれている人ではなく、企業やブランドや地域が大切にしている価値を支持してくれる人のことです。
そのブランドや商品の値段・利便性ではなく、その背景にある理念・哲学などに「共感」「愛着」「信頼」している人たちこそがファンです。
人はプロダクトそのものではなく、開発秘話・想いといった「ストーリー」に特別な感情を抱きます。
ちなみに、顧客全員にファンになってもらう必要はありません。ファンは商品を購入してくれた人の20%くらいです。
|ファンべースと一般的なマーケティングの違い
ファンベースと一般的なマーケティングの違いは以下です。
ファンベース | 一般的なマーケティング | |
目的 | 売上の増加 | 売上の増加 |
アプローチ方法 | 顧客ロイヤルティ向上・コミュニティ形成 | 認知度向上・購買意欲向上 |
ターゲット | 特定のファン層 | 不特定多数の顧客 |
コミュニケーション | 双方向 | 一方向 |
期間 | 中長期の関係構築 | 短期的なキャンペーン |
主な手法 | SNS・イベント・共創 | マス広告 |
主な指標 | LTV・NPS* | リーチ数・認知度 |
最終的な目的は売上を増加させることでおおむね共通していますが、それを達成するためのアプローチ方法が異なります。
ファンベースはファンを大切にすることを基軸としたマーケティングです。
一般的なマーケティングが得意とする不特定多数をターゲットにしている点において、真逆の考え方です。
ファンベースは短期的な効果はありませんが、ファンを喜ばせることで中長期的に売り上げが上がっていくことが期待できます。
そういうファンの存在を「ベース」にした上で、今までのキャンペーンも組み合わせて、中長期と短期の組み合わせで売り上げを上げていきましょう、というのがファンベースの骨子です。
ちなみに、近しい用語である「ファンマーケティング」や「ファンビジネス」は、新たなファンを増やして売上を伸ばす考え方です。
一方でファンベースは特に既存のファンを大切にして、LTVを高めていくことで売上を安定させる考え方です。
※「NPS」とは「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤルティ(商品やサービスに対する信頼・愛着)を測る指標。 |
ファンベースの考え方が欠かせない理由
ファンベースという考え方が重要となる理由を解説します。
理由としては3つ挙げられます。
・人口減少・高齢化社会の到来
・超成熟市場という社会背景
・情報過多・情報の二極化
佐藤氏によると、時代背景の変化によってファンベースが重要となりました。
このような時代において、従来通りのキャンペーンでは新規顧客の獲得は難しくなるからです。
|人口減少・高齢化社会の到来
日本において、人口減少と高齢化社会は急速に進んでいます。
まずは人口減少・高齢化社会は、物理的に顧客となる人口が減っていることを意味します。
上記の図表にある通り、日本では毎年100万人の人口が減少しており、2024年には国民の三人に一人が65歳以上の高齢化社会が到来します。
さらに、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています。
この減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されています。
高齢者はなじみのある商品を購入する保守的な側面があり、新規顧客の獲得が企業にとっては困難になります。
人口の減少・高齢化社会によって需要が減ることに加え、新規顧客の獲得への競争の激化が考えられるでしょう。
2035年には人口の約半分が独身者になると想定されています。
これは、結婚・妊娠・出産などのライフステージの変化に伴う需要の減少を意味します。
こういった人口減少やライフスタイルの変化によって、需要が減り企業にとって新規顧客の獲得が困難になりつつあります。
自社の商品やサービスを購入してくれる顧客を増やすために、ファンを増やすことが重要になっているのです。
|超成熟市場という社会背景
超成熟市場という社会背景が理由になるのは、このような市場ではブランドに愛着を持ってもらうことが重要だからです。
超成熟市場とは、商品が多く、そのクオリティがすべて高い状態の市場のことを指します。
商品の種類が多く選択肢が多いと、人は選ぶことに疲れ購入をやめてしまうという実験結果があります。
また、質の良い商品が多く並んでいると、その中で特徴を出したり差別化を図ることが難しくなります。
先行して発売した商品はすぐに後発に研究され、優れた商品であっても他社に売り上げで追い抜かれることは少なくありません。
なので、ブランドに好意を持ってもらうことが、超成熟市場における競争力を保つために重要になります。
商品やサービスの機能は真似できても、顧客の愛着など情緒的な価値は真似することはできません。
この観点からも、愛着を持ったファンを生み出すことが非常に重要であることがわかります。
|情報過多・情報の二極化
情報過多と二極化という観点でも、ファンベースは重要です。
ファンベースの考えに基づいてファンを獲得できれば、低コストで事業を続けられるからです。
現代は情報が多すぎ、伝わりにくい状態が首都圏では続いています。
下図は、人口一人あたりの年間検索数を指数化し、都道府県別に表したものです。
参考:日本は2つの国からできている!? ~データで見る東京の特異性~
この調査によると、東京は他県に比べて圧倒的に検索数が多いことがわかります。
東京の一人あたり検索数を100とすると、ほとんどの地域では東京の半分以下という状況でした。
このように、このあふれる情報からネットで検索して情報を得ているのは首都圏の人だけです。
他の地域の人たちはテレビやラジオ・新聞から情報を得る文化が根付いているのです。
首都圏ではデジタルマーケティングが効果がある一方で、地方ではテレビCMなどの効果が高いという二極化が生まれています。
このどちらもアプローチをするとなると、多くの予算が必要となってしまいます。
ファンベースの考えに基づいて、情緒的つながりを求めるファンを獲得できれば、情報過多・二極化の社会においても低コストで事業が継続できます。
ファンベースの根幹は「共感・愛着・信頼」
ファンベースは「共感・愛着・信頼」の3つが根幹をなしています。
ファンの支持を強くする、この3つの重要なアプローチに取り組むことが必須です。
それぞれの詳細を紹介します。
|共感を強くする
ファンベースのアプローチの一つ目は「共感を強くする」ことです。
ファンであることに自信を持ってもらうことが重要だからです。
共感を強くするためにはファンの言葉を傾聴することが必要です。
ファンの言葉の中から共感してくれているポイントを知り、商品・サービスが大切にしている価値を明確化していきます。
施策としてはファンミーティングやアンケートなどを行います。
ファンであることに自信を持ってもらうためには、他のファンも同じように共感し推しているということをシェアすると良いでしょう。
ファンの共感するポイントを把握したら、ファンが喜ぶことを実行していきます。
新規顧客の獲得よりも、ファンを優先することでより特別感を感じてくれるはずです。
これによりファンであることの自信や誇りを持ち、ファン同士での強固な関係が築かれ共感ポイントを再発見してもらうことも可能です。
|愛着を強くする
二つ目のアプローチとしては愛着を強めることです。
愛着を強めることで、商品やサービスの価値を特別なものとして扱ってもらえるようになるからです。
愛着を強めるためには、以下の実践が効果的です。
・商品にストーリーやドラマ性を付与する
・ファンとの接点を大切にする
・ファンが参加できる場を増やす
商品やサービスの背景に人の存在を感じることで、愛着は深まります。
ストーリーやドラマのコンテンツを作ったら、ファンがアクセスしやすくしておくことも大切です。
店頭での接客やSNSでのファンとの接点を大切にし、ファンにとって印象深い体験となるように改善していきましょう。
ファンが接点を持った時に特別感を持てる工夫が必要です。
さらに特別感を持ったファンが参加し、思いを共有できる場があれば、愛着は強くなっていきます。
ファンコミュニティがこれにあたり、ファンベースの施策として立ち上げる企業が増えています。
|信頼を強くする
3つ目のアプローチとしては信頼を強めることです。
誠実な対応や透明性を確保することで、企業の評価を向上させることができるからです。
このためには、企業はファンに対して誠実な対応をすることが大切です。
しつこい広告や営業・品の無いバナー広告やわかりにくい解約方法などは、ファンからの評価を下げることにつながります。
短期的な利益のためではなく、本当にファンのためのやり方なのかを優先させることが必要です。
中長期的にファンと信頼関係を気づいていくために、誠実な対応を心がけましょう。
ファンベースの考え方では、商品の品質に関する説得力を高める活動を強化することが求められます。
商品の作られる工程や関わる人物を公開したり、細部まで開示することで信頼を熟成することができます。
企業の社員が自社の商品を信頼し誇りを持っていることは、ファンの信頼につながります。
透明性のある姿勢を見せることで、ファンの信頼を強くすることが可能です。
ファンベースのメリット・デメリット
ファンベースの考え方はメリットが多いですが、デメリットも存在します。
それぞれ確認しておきましょう。
メリット | デメリット |
・ファンのLTVを高める ・商品の改善化 ・新規顧客の獲得 | ・短期的な成果が望めない ・成果を計測するには仕組みが必要 |
|メリットはLTVが向上して売上が安定すること
ファンベースの最たるメリットは、顧客との長期的な関係を構築できることです。
顧客は製品やサービスに対して強い愛着を持つようになり、繰り返し購入する可能性が高まります。 これによりLTVが向上し、長期的な収益が安定します。
さらに、ファンによるポジティブな連鎖がつながっていくことにあります。
ファンは安定した売り上げ基盤となるだけでなく、広告塔としても活動してくれるからです。
愛着を持っているファンは、自分が良いと思うものを他の人にも伝えたいという思いを持ち、オンライン・オフラインで商品を広めてくれる可能性もあります。
ファンの口コミは強力です。
ファンベースの考え方による取り組みは、LTV向上から売上を安定させて、ポジティブな連鎖がつながっていくことが期待できます。
|デメリットは時間がかかること
ファンベースのデメリットとしては、時間がかかるということがあげられます。
前述しましたが、顧客がファンとなるまでは「共感・愛着・信頼」を強めることが重要です。
時間をかけて交流することで、ファンを増やしていく必要があります。
ファンを大切にする仕組みを構築し、丁寧に一つずつ取り組むことでファンベースの土台が築かれます。
即効性を求めず、中長期的な価値創造のためにファンベースの考え方に基づいたアプローチが必要です。
また、予め成果を検証できるよう指標と測定方法を整えておくことが必要です。
ファンベースの取り組みの第一歩はファンミーティング
まずファンが愛してくれている情緒価値を知るために、ファンミーティングをやることです。
ファンたちが、企業のどの点を評価していて、愛しているか、その核心を見抜き、そこを踏まえてキャンペーンや商品開発をすることが大切だからです。
ファンになるためには、必要な価値が3つあります。
- ・機能価値
- ・情緒価値
- ・未来価値
特に重要なのは情緒価値です。
ファンの温度が高まっていくと、機能価値から情緒価値へ、情緒価値から未来価値へと進んでいきます。
ファンが商品やサービスに感じる価値として、機能価値は伝わりやすく伝えやすいという特徴があります。
ですが、機能価値は真似されやすく、他社の似たような商品・サービスに埋もれてしまうことも多いです。
機能価値だけでなく、情緒価値・未来価値を高めることでファンに特別感を持ってもらうことが重要です。
商品やサービスに対する愛着や信頼といった情緒的価値だけでなく、企業のSDGsへの取り組みなどポジティブなイメージを持ってもらうこと(未来価値)もファンになるために必要な価値です。
まとめ
ファンベースとは、売上の大黒柱であるファンに注目した企業の売上・価値を伸ばす考え方です。
ファンベースは端的に言うと、ファンを喜ばすことに真剣に取り組み、ファンに誠実に接する姿勢です。マーケティングとしての「手法」よりも「顧客に向き合う姿勢」と考えたほうが理解しやすいかもしれません。
どんなビジネスでも目的は顧客を喜ばせることに尽きます。
ファンベースの新しさは、数多くいる顧客の中でもファンの存在価値を認めて、企業の売上安定化と価値を高める点を提唱したことです。
新規顧客の獲得が困難になるこれからの時代、商品やサービスに愛着を持ちながら、友人に推奨してくれるファンの存在は非常に重要です。
かといって、ファンとしっかり向き合って企業の価値を高めることに取り組むことは簡単ではありません。
成果に時間がかかるだけではなく、部門単位ではない全社的な取り組みが必要となる場合があるためです。
社内である程度の合意形成ができたら、試しにファンに集まってもらい、商品・ブランドへの意見を聞いてみることをオススメします。
ファンに直接向き合うことになれば、ファンの重要性とファンベースの可能性を感じて、さらにファンベースの取り組みが加速的に前進できるはずです。